リギングのガイドライン
リギングとは
リギングは、キャラクターアニメーションにとってきわめて重要な側面です。リグによって、パラメータを介した一連のコントロールを提供し、3Dのキャラクターを変形させてアニメーションを実現しています。これらのコントロールは、いわば操り人形を動かす糸のようなものです。キャラクターの自由度を決め、動きの構成要素になります。リギングが適切な場合、リアルで表情豊かなアニメーションに仕上げることができますが、適切でない場合はアニメーションの品質を損なうことになります。
リグのタイプ:ボーン、ブレンドシェイプ、UIコントロール
通常、キャラクターのリギングは、ボーン、ブレンドシェイプ、UIコントロールという3つのカテゴリに分かれています。ボーン(ジョイント)は、キャラクターのスキンに局所的に作用する単純な3Dトランスフォーム(移動、回転、スケール)です。ブレンドシェイプは、さまざまなシェイプ間の3D補間(モーフィング)を通じてスキンを変形させます。ユーザーインターフェイス(UI)コントロールは、デジタルコンテンツ制作ツール内で操作してキャラクターを変形させることができる、扱いやすいハンドルをコンパクトにまとめたものです。今日のキャラクターリグの多くは、これらの3つの手段すべてを組み合わせたものになっています。
弊社のアニメーションシステムはマッスルをコントロールし、マッスルはリグをコントロールします。このような間接的なレイヤーがあるのは、マッスルポーズをリグという形で定義できる限り、ボーン、ブレンドシェイプ、UIコントロールのどれで動かすかにかかわらず、任意のタイプのリグでマッスルポーズを取り扱えるためです。ブレンドシェイプの個別のセット、ボーンのレイアウト、コントロールインターフェイスは規定されていません。
ボーン/ジョイント
ボーンリグ
ボーン(ジョイント)は、骨格に基づいたモーションをシミュレートするのに最適なため、体をコントロールするのに適しています。ちなみに、一般的にボーンはフェイシャルアニメーションでも利用されていますが、顔のマッスルの軟組織を動かす時にだけ使われ、骨格を動かすわけではありません。
顔のボーンリグを作成するとき、モーションの範囲を最大限まで大きくするには、少なくとも約100個の顔のボーンを取り扱うことになります(ブラウザなど、リソースが限られているレンダリング環境ではボーンの使用数を減らすことができます)。リップをすぼめるといった変形度が大きいポーズも表現できるよう、口の領域に適切な数のボーンを使用するようにしましょう。必要不可欠な口のポーズを表現できるようにするには、目安として、リップに少なくとも12~16個のボーンを使用します。顔の残りの領域については、頬の上側、眉間、目の周囲など、変形度がきわめて大きい領域で最大限の柔軟性を得られるようにボーンをレイアウトします。
スキニングの影響を最大限まで高めるには、頂点ごとに4~8個のボーンを配置します。ボーンの密度がそれほど高くない場合、たとえばリップのボーンが12個以下の場合は、頂点ごとに4個のボーンで済ませることもできます。リップのボーンが13個以上の場合は、8個のボーンでスキニングの影響を最大限に高めることになるでしょう。良いアニメーションを生成するには、すべてのボーンのある程度のスキニングと調整が必要です。
ブレンドシェイプとUIコントロール

ブレンドシェイプの作成に使用される3Dスキャンデータ
UIコントロール(Epic MetaHuman)
ブレンドシェイプは、各頂点がそれぞれ固有の軌道をたどる複雑な変形パターンを表現できるため、フェイシャルアニメーションに最適です。UIコントロールはアニメーターにとって使いやすいハンドルであり、ひとまとまりのブレンドシェイプやボーンを、状況に応じた補正を加えながら整合性を保って動かすことができます。ブレンドシェイプとUIコントロールのどちらも、多くの場合、顔を分析して基本的な動きのパターンに分解したものが基盤となっています。
顔の筋肉の基本的な動きを説明する体系のひとつに、フェイシャルアクションコーディングシステム(FACS)があります。多くの専門技術者は、この分析に何らかの形で手を加えてブレンドシェイプやUIコントロールに応用しています。弊社のマッスルセット自体も、顔を分析して基本的な動きのパターンへと分解したものです(「SGXはFACSか」参照)。ただし、弊社のマッスルをポージングするうえで、ブレンドシェイプやUIコントロールを設計する必要はまったくありません。リグパラメータを組み合わせて使用することでポーズを表現できます。
弊社のマッスルをポージングするうえで、ブレンドシェイプやUIコントロールを設計する必要はまったくありません。リグパラメータを組み合わせて使用することでポーズを表現できます。
リップの領域をファインチューニングできる機能は重要です。この作業には、通常、基本的なFACSセットの要素ではない追加のブレンドシェイプが必要になります。フルレンジのフェイシャルアニメーションを表現するのに必要なポーズやブレンドシェイプがすべて揃っているものの代表的な例は、Epic MetaHumansのリグです。このポーズは、Mayaの[CTRL_expressions]ノードにすべて収められています。
ブレス
SGXでは、ブレス(呼吸)のサイクルをアニメーションさせることができます。ブレスアニメーションは息を吸って吐く音と同期されるほか、話の合間にも自然に組み込まれます。ブレスの強さ、速度、割合は、いずれも声の出し方によって決まります。
自動化されたブレスアニメーションは、新しいChest Breath(胸呼吸)マッスルが定義されていれば利用できます。なお、Chest Breathマッスルの定義は、ボディリグがある場合しかできません。スパイン(脊椎)ジョイント、ショルダージョイント、ネック/頭部ジョイント(または対応するコントロール)を備えたリグであれば理想的です。ボディリグの構造が限定的であるほど、ブレスマッスルも単純なものになります。リアルな呼吸を再現するには、最低限、少し持ち上げられるショルダージョイントが2つ必要です。

リグの品質
良い印象のアニメーションを作成するには、マッスルポーズの品質が重要です。したがって、リグの品質は、優れたマッスルポーズを表現できるかどうかにかかっています。特に、きわめて高い精度が求められるリップ、顎、舌、まぶたのマッスルには注意が必要です。詳しくは、「マッスル」を参照してください。
お持ちのリグがスピーチビヘイビア、ノンバーバルビヘイビアに適応するか調査したうえで、品質などへの影響の有無についてアドバイスいたします。通常、お客様のリグに変更を加える必要は生じませんが、良い結果を得るには、優れたマッスルポーズの主な特徴である分離、ディテール、可動限界にご注意ください。
分離の実現
良いリグとは、各部を分離して動かせるものです。つまり、顔の特定の部位だけを動かせるのであれば、リグでもそれが可能でなければなりません。人間などの生物は顔の中にある部位を互いに独立して動かすことができるため、リグでも同様に独立して動かせなければなりません。目安として以下の部位を参照してください。
リップと顎と舌
顔の下半分と上半分
下唇と上唇
下まぶたと上まぶた
顔の左側と右側
1つのマッスルの収縮による影響を、他のマッスルによる影響と混合することなく個々のマッスルポーズで正確に捉えることが可能になるため、この分離の原則は重要です。複数のマッスルが混合されているポーズを作成すると、キャラクターの自由度が低くなり、それぞれの部位が不自然で矛盾した状態で結合されます。
ディテールの実現
マッスルの動きを分離することが重要であると同時に、マッスルの影響全体を捉えること、つまり変形のディテールを最大限に再現することも重要です。したがって、リグは変形のパターンをきわめて詳細に描写できるとともに、顔の表面全体をコントロールできるものでなければなりません。最悪のケースは、顔の中に「まったく動かない」ゾーンがあること、つまりどのリグコントロールでも動かせない領域があることです。通例、コントロールの密度が高ければ、より複雑でリアルな変形を実現できます。また、マッスルの動きによっては、その場所以外で二次的な影響が生じることにもご注意ください。たとえば、上唇が下に動くと、頬と鼻の領域も一緒に引っ張られます。このように二次的な動きで細かいニュアンスを加えることで、リアルで説得力のあるフェイシャルアニメーションを可能にします。
原則として、人の顔で特定の変形パターンができるのであれば、リグでもその変形パターンに近いものを再現できなければなりません。動物や異星人、モンスターなどのキャラクターであったとしても、(通常は人になぞらえた)その生理機能に対応した細かい動きを表現できなければなりません。
可動限界の実現
表現力に富んだフェイシャルアニメーションを作成するには、リグで極端なマッスルポーズを具現化できる必要があります。各マッスルポーズでは、キャラクターがそのマッスルを最大限まで駆使した状態を表現します。したがって、ブレンドシェイプの強度が低いなど制限が設けられているためにリグで大ぶりなポージングができない場合、そのキャラクターはフルレンジでの動きが表現できません。表情豊かなアニメーションにすることが難しくなるだけでなく、一般的に、マッスルのポージングが弱く、動きが小さいと、強度にかかわらず十分なビヘイビアを表現できません。